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キモヲタ☆ノーガード! #13

キモヲタ☆ノーガード! あとがき

 キモヲタ☆ノーガード本編は、第12話を以って終了です。
 ここまで読んで下さった皆様、楽しみにして下さった皆様、
楽しんで下さった皆様、もしいらっしゃるのでしたら、心より
感謝申し上げます。
 というわけで、あとがきという名のネタバレです。
 現実の俺に起きたことを短編小説として表現してみたという
本企画ですが、ことの発端は2013年夏休み、俺が滋賀から
東京に戻る少し前の出来事でした。
 俺がS医大での友人SUMS氏&サムス氏(両名とも仮称)
と3人で家付近のチャンポン屋「グラバー亭」で食事しながら
雑談していた際、彼らに「実は今度実家帰ったら、俺の部屋に
俺が一度も会ったことの無い女の子が住み込んでいるんだ」と
打ち明けると、会話が予期せぬ方向へ盛り上がったのでした。

*)以下の会話ログは再構成されており、大まかな流れは現実
  の会話に即していますが、会話表現は敢えてVIPっぽい
  ものに変更しています。特に深い理由はありません。

俺「今度帰ったら部屋に知らない女の子が住み込んでいる件」
サ「1ゲトズサー」
S「名スレの予感」
サ「詳細kwsk」
俺「親父様の義兄弟の娘さんって関係の子が日本に留学して、
  我が家の俺の部屋を使ってるんだよな。前回東京いたとき
  全然聞かされてなかったから、部屋の本棚整理されてない
  状態なんだよな…黒髪ロング萌えムックとかエロ同人とか
  刺さってるし、ゼッタイ見られるし、性癖バレバレだよ」
S「うはwwwテラヤバスwwwww」
サ「スペックキボンヌ」
俺「それでは、まず俺のスペックを…」
S「男イラネ」
俺「把握wwwえーと、相手は10歳くらい年下。正直1度も
  会ったことないし、写真も見たこと無い。でも、親に電話
  したとき、なんだか妙に彼女をしきりに褒めまくる、と」
サ「写真もうpせずスレ立てとな!?」
S「ご両親は、スレ主とおにゃのこをくっつけたい魂胆とか」
俺「どうかな。でも確かに、それを匂わせている気配はある。
  ともかく、見ず知らずの女の子と突然同居確定なのだが」
サ「うはwwwおkwwwwwそれなんてエロゲwwwww」
俺「んなわけ、あるかよw」
S「しかし、こんなこと中々無いな。今後、ブログを読むのが
  楽しみになってきたよ」
サ「盛wりw上wがwっwてw参wりwまwしwたw」
俺「確かに唐突な出逢いから何かが起きるってのは青春ラノベ
  などではありがちな展開かも知れないが、現実ではなぁ」
S「もうこうなったら、YOUラノベ書いちまえYO」
サ「ktkr、新企画発動期待age」
俺「おいおい、卒試前だろがwwwまぁ考えてみるよwww」

 この時点では、現在のラノベ風文章にするかどうかは、まだ
決めかねていました。やはり俺は勉強しなければならない身と
言うことで、勉強に支障が出そうなことは避けたいというのが
ホンネでした。
 しかし東京に帰る前の土曜、深夜アニメで化物語という作品
を見ていた際に羽川翼というメインキャラクターが家の通路で
寝ていた描写を想い出して、自分の中でも何故そうなったのか
理由不明ですが、その瞬間、創作意欲が一気に湧いたのです。
 「あ、これは本当に作品としての体裁を為せるかも」
 それは、確信に近い感覚でした。
 それで7月27日深夜、日付は7月28日午前4時(土曜夜
のアニメシャワーを観終わった直後ですね)俺は日記でこんな
風に思いを綴ったのでした。

−−−

「7/27 フツーの週末な気がする」より抜粋:

 俺の人生って色んな所で仕組まれていると言うか、俺の知ら
ない所で御膳立てされているような気がする。
 俺はその御膳立てされたレールに乗って大人しく身を任せて
いるに過ぎず、自分の意思のみで掴み取ったものなどほとんど
無いのではないか?
 俺は誰かに操られているだけなのではないか?
 なにも俺のキャリアの話だけではない。
 もしかしたら、婚姻までもが何者かに仕組まれているのかも
知れない、そんな感触を最近感じている。
 俺の価値観からすると、それは許されざることだった。
 ・・・今までは。
 国際学校で教育された俺は、何より人間の自由権利を貴ぶ。
 だから、仮に俺のやること為すこと全てが俺の自由意志では
無く誰かの御膳立てに乗せられたことだったとしたら、それは
俺という存在への冒涜だとすら思えて来るのだ。
 ・・・そう、今までだったら。
 最近は、そうでもないと思えるようになった。
 御膳立てしてくれるのなら、それはそれで構わない。むしろ
楽なのかも知れないと思う自分が生じて来ているような。
 むしろ、御膳立てしてくれる物事は俺の別の価値観から観た
場合は些事でしかなく、俺は俺が本当に大事と思うことを自分
の意思で勝ち取りに行きたいのだから、些事は他人任せで推移
しても何ら問題は無いのではと。
 そう、俺に取って俺のキャリアとは、些事に過ぎない。
 婚姻ですら、些事であるように思える。
 そもそも大学院時代の人生設計が完全に覆された時点で俺は
自分の力で飛ぶ翼をもがれたも同然なのだから。
 よって、以後は風が勝手に俺を運んでくれると言うのなら、
抗う必要は無いし、そもそもそうする術も無い。
 これはこれで、俺は義務を果たしていることになるし、この
点に関しては自ら望んだことだ。
 その中で俺はベストを尽くせば良いし、また、いつの日か、
俺が本当にやりたかったことに着手する時まで、俺はその感覚
を養い続けるようにしていれば良いのだ。
 この身体は、既に俺のモノでは無いのだろう。
 だが、我が方寸までは奪えないだろう。
 誰にも、決して、奪え得るものでは無いのだ。
 奪わせない。
 さて、先日一緒に昼メシを喰った察しの良い友人の中には、
これを読んだ場合お気付きになるかも知れない。
 そう、今回、この文章は。
 もしかしたら「序章」ということなのかも知れない。

−−−

 上記の「昼飯を食った友人」とは勿論SUMS氏&サムス氏
であり、これは完全に彼らに向けた文章だったのです。
 そして、結果的に。
 不思議な、もしかしたら皮肉ですらあることですが、ここで
「婚姻ですら、些事であるように思える」と書いてあったのは
当時の俺の本心であるにも関わらず、今の俺に取って彼女との
付き合いは些事どころか未だかつてないほどの人生的ウェイト
を占める極めて大事・大切なことになっているし、更に「我が
方寸までは奪えない、奪わせない」と決意に満ちた言葉を吐い
ていたにも関わらず、今の俺の心は完全に彼女に奪われている
ということで、上記「俺の人生って〜奪わせない」の文章は、
この作品の序章として位置付けられる内容となったのでした。
 当然この時点ではまだ俺が彼女と恋愛関係になるなんて全く
思っていなかったわけですし、この文章がこんなにもその後の
展開と見事に対応・呼応することになろうとは、これ、まさに
「事実は小説より奇なり」と言えますね。
 そう、彼女との邂逅は本当に全てにおいて俺の想像を遥かに
超えていました。
 この物語を書き始めた序盤の頃、まさか10日目で告白まで
行くなんて想像だにしなかったわけで、最初は本当に暗中模索
の状態で「この物語、最終的に形になるのか?」と疑心暗鬼で
書き進めていたのを今でも覚えています。
 投稿日付を追いかけて行くと解ると思いますが、6話までは
その日起きたことを、その日のうちに書いていたのに対して、
7話以降は実際の日付から期間を置いて書かれています。
 これは即ち、6話執筆終了後から7話執筆開始までの間で、
現実世界では俺の理解が追い付かないほどの急展開が連発して
居たということであり、中々その日のうちに書くために必要な
頭の整理が追い付かなかったということでもあるのです。
 ツイッターで興奮・錯乱した書き込みを行い、複数の友人に
「こんなに取り乱しているチャンプさんも珍しい」などと指摘
されたりしたのも、この時期でした。
 そして、この6話を書き終えてから7話を書くまでの間に、
告白が完了しています。
 つまり、7話以降は既に恋愛成立している状態から振り返り
ながら書いているという状況。もし作品をもう1度読み直す、
なんて酔狂な方が居ましたら、この「6話と7話の間の心境の
変化」に注目しながら読むと、1周目とはまた違った味わいが
出るかも知れませんね。
 俺自身、自分が書いた作品を読み直しましたが、様々な表現
の未熟なところに戦々恐々しつつも、様々な再発見があったり
して、結構興味深い経験となっています。
 例えば、良く見たら4話〜5話の時点で既にフラグ立ってる
部分が出てるじゃん、などなど、当時は全然そういうつもりが
無かったのですが、自分自身では認めていない彼女への好意が
文章ににじみ出ていて、読んでいて笑ってしまいました。
 さて、ここで9月5日現在における俺達新米カップルの現状
を御報告して、あとがきを終えたいと思います。
 互いの気持ちが絶頂にあるこのタイミングで遠距離恋愛突入
ということで、俺は大変寂しい思いをしています。彼女も俺に
似たようなメッセージを度々送って来ます。それを見る度に、
彼女の気持ちを嬉しいと思いつつも切なく思う日々です。
 とはいえ、現在俺達は夜な夜なビデオチャットで互いの姿を
見ながら、その日の出来事や想いを伝え合ったりしています。
即ち、完全に姿も見られないというわけでもなく、IT技術の
進歩がもたらした現代のツールのお陰で交際はかなり順調だと
言うことが出来ます。本当に有難いことです。某K大時代に、
とある講義でお世話になったM井教授に感謝です(詳細は俺の
リアルネームで検索すれば察しが付くかも知れません)。
 勿論、実際隣に居たい、触れたい願望は日に日に増して行く
一方ですし、今後も色々と困難や障害があるかと思いますが、
二人に芽生えた絆と、それが段々強くなっていくことで生じる
勇気を以って、一つずつ乗り越えて行きたいと思います。
 皆様におかれましては、今後とも生暖かく見守って頂けると
嬉しく思います。そして、もしこの非現実的な出来事が現実に
起きたという不思議な物語が少しでも皆様の心に響いた部分が
あるのでしたら、こんなに光栄なことはありません。
 重ね重ね、ここまで我が拙筆にお付き合い頂きまして、真に
ありがとうございました。コメント下さった皆様、実際更新が
楽しみだと言って下さった皆様(SUMS氏やサムス氏だけで
なく、様々な方に応援頂きました)、最後まで書き終えられた
のは皆様のお陰だと思っています。本当に感謝しております。
 勿論、今後ともご意見ご感想お気づきの点や質問などなど、
コメント欄に残して下さるとチャンプの中の人が大変wktk
しますので、是非是非ご自由に宜しくお願いします。
 「リア充爆発しろ」の一言でも、構いませんwww
 久々の物語文章なので、何かしらフィードバックあると凄く
今後の勉強になって助かるのです☆
 …フィードバック…?
 それでは最後に、本編に入りきらなかったエピソードを一つ
蛇足ながら(いつも通りアレコレ脚色した上で)オマケとして
紹介し、今回の物語のティロ・フィナーレとします。
 ここまで本当にお疲れ様でした。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

キモヲタ☆ノーガード! #11.5

 8月19日、月曜日。
 俺とマリサとの交際がスタートした週、彼女の日本語学校は
夏休みだった。この日、学校再開ということで、彼女は朝から
元気に出掛けて行った。
 俺の方はと言うと、家付近の病院の採用面接を受けに行き、
昼前に終わって帰宅していた。
 暫くして彼女も帰宅し、嬉々として話しかけて来た。
 「お兄ちゃん、面接どうだった?」
 「とりあえず、出しきって来たよ。後は向こう次第」
 「そう、ベストを尽くしてきたのなら何よりだよー」
 「そっちはどうだったの?」
 「そうそう!あのね、聞いて聞いて!今日学校でね」
 なんという笑顔。喜色満面とはこのことか。
 「先生がみんなに“夏休みの間、何かしましたか”と聞いて
きたものだからね」
 「ほう…それで何て言ったのかな」
 「日本語で、ちゃんと“新しいカレが出来ました”って言う
ことが出来たんだ。キャー!」
 両手で顔を覆うマリサ。ああもう、可愛いなぁ。
 というか、日本語でそれを言えるなんて素晴らしい進歩だ。
 それにしても、度胸あるな。
 「それは…周りをびっくりさせたんじゃない?」
 「そうそう、それで先生やクラスメートがびっくりして色々
聞いて来たりしたんだよ。それでね、ちょっと私を狙っている
素振りを見せていたあの人、苦虫を噛み潰したような表情で」
 確かにマリサは以前、しきりに食事に誘おうとする人が居る
って言ってたな。そりゃ、これだけの美人だしな。
 「それは…カミングアウトして良かったな」
 「そうね。ふふふ…ねぇ、お兄ちゃん」
 「なんだい」
 「私ね、本当はこんな簡単に手に入る女の子じゃないのよ。
今までの交際だって、とっても長い時間追いかけられて、その
末に結論出していたんだから」
 「知ってる」
 「お兄ちゃんが最速記録よ。僅か10日で告白するなんて。
そして、それにOKしてしまうなんてね」
 「それは…もしかして、後悔してる?」
 「まさか!そうじゃないの。僅か10日なのにお兄ちゃんの
ことがこんなに好きな自分自身に、一番びっくりしているの。
これって、運命ってことなのかな」
 きっと、運命なのだろう。そうであって欲しい。
 俗説で、女は現在の恋愛が最後であって欲しいと思い、男は
現在の恋愛が彼女に取って最初であって欲しいと思うものだと
聞いたことがある。
 しかし俺は、この恋愛が彼女に取って最後であって欲しいと
真剣に願っている。交際してまだ1週間足らずだが、それだけ
俺はマリサに惚れ抜いていることを自覚していた。
 この想いを、俺は彼女に告げた。
 すると、彼女は極上の微笑みを見せた。
 「お兄ちゃん、私もこれが最後であって欲しい。もうあんな
悲しい思いはしたくないもの。でもね、お兄ちゃん。特別に、
これは言っておきたいの」
 意味深な表情だ。
 「私にはね、最初が………ッ!」
 俺は彼女の唇を塞いだ。
 この子は、俺が大事にしなければいけないんだ。
 俺の、運命の人。
 決意と覚悟が俺の中で芽生えた。それは、果てしなく大きく
膨れ上がって行くのだった。二人の、未来へ向かってーーー。

                          /終
チャンプ(−O−) * キモヲタ☆ノーガード! * 00:03 * comments(4) * trackbacks(0)

キモヲタ☆ノーガード! #12

 8月24日、土曜日。
 俺がマリサに告白してから、12日間が過ぎた。
 僅か、2週間足らず。
 即ち、出逢ってから22日間。
 一ヶ月にも満たない短い期間。
 出逢い、惹かれ、思いを告げ、深く愛し合うようになった。
 全てが想像を超える速度で進み、過ぎて行った。
 この日、俺達は東京駅、新幹線ホーム上に居た。
 即ちこの日は、俺が、滋賀へ赴く日。
 二人が離れ離れになってしまう日だ。
 出逢い、惹かれ、思いを告げ、深く愛し合い、互いの想いが
最高潮に達したまま遠距離恋愛へと移行する日だ。
 なんという、非現実的(アンリアル)な関係か。
 愛別離苦。なるほど、これはとても辛いものだ。
 胸が締め付けられるような苦しい思いに駆られ、俺は思わず
涙がこぼれそうになった。
 乗車口付近の階段で、マリサは「お兄ちゃん、泣かないで」
と言いながら俺の頭をそっと胸に抱き寄せた。
 しかし彼女の顔も、今にも崩れそうだった。
 「…ああ…解ったよ。俺、精一杯頑張るからな」
 そう言うと、マリサは笑顔で「うん」と小さく頷いた。
 そして、見つめ合ったまま短い沈黙が続た。
 その間、数多の思い出が鮮明なイメージと共に一気に脳裡に
流れ込んで来る感覚に俺は呑まれていたのだった。
 例えば、その1。
 あるとき、二人で歩きながら互いの家庭について語っていた
流れで、ふとマリサが「私はお姫様じゃ無いのよ」と言った。
彼女の両親は厳しくて、過保護気味であると。
 俺はそのとき、何も考えず「でも、君は俺のお姫様だ」と、
耳元で甘噛みを交えながらささやくように英語で語りかけた。
 彼女は俺に向き直り、真顔で「私…溶けちゃう」と言った。
 その表情が、たまらなく可愛かった。
 例えば、その2。
 あるとき、マリサはキモヲタである俺に二次元についてどう
思っているのか尋ねていた。
 俺は「ずっと変わらないままでいるのが二次元の魅力だよ。
それに対し、三次元の魅力は変化したり成長したりするところ
だと思う。今まで心の傷から三次元を避けてきたけど、ずっと
持論としては思って来たんだ。二次元と三次元は、例えば絵画
と音楽のように、互いに比べられないもの、混同するのは凄く
おかしい、そんな関係だと。それぞれの魅力は全く違うから」
 するとマリサは「うん…中々健全な考え方じゃない?」と、
安心したような笑顔を向けて来た。
 ああ、この娘は理解があるんだなと、俺は安堵した。
 例えば、その3。
 あるとき、マリサは本棚に刺さっていた黒髪ロング萌えの本
を取り出して、俺に尋ねた。
 「お兄ちゃん、ロングが好きなの?」
 「ああ、そうだ」
 俺は脊髄反射で即座に回答した。
 「ふーん、私もちょっと前まで髪長かったんだけど…残念。
でもなんで、ロングが好きなの?」
 「アジア人女性がその身体で表現出来る、最高の美だと俺は
心の底から思っているからだ。幼少期より、俺は黒髪ロングに
尋常ならぬ執着を持っていたんだ」
 これも、思考時間ゼロでの回答だった。我ながら全く以って
キモヲタらしい反応である。
 マリサはにこりと笑って、俺の想いを受け止めた。
 「じゃあ、また伸ばそうか。喜んでくれるかな?」
 俺は、これまた超反応でブンブンと首を上下に振った。
 「そうしてくれたら、多分俺の理性が吹っ飛ぶよ」
 「じゃあ、やらない方がいい?」
 「逆。是非お願いします。俺の理性を吹っ飛ばして下さい」
 マリサは愉快そうに笑いながら「わかった」と言った。
 例えば、その4。
 マリサは、ベタベタするのが好きである。ことあるごとに、
何かと俺の身体を触ってくるのだ。
 スキンシップを好むのは、俺とて同じである。
 よく外出先でもベタベタするカップルがネット上で怨嗟の念
を向けられるのを目にするが、いざ自分がそうなってみると、
頭で解っていても中々理性が追い付いて来ない。
 アキバに出かけた時など、街中で手を繋ぐのは控えようよと
伝えても、手が触れると自然と握ってしまうし、握り返されて
しまうし、更には腕にしがみつかれたりするものである。
 そんな触れ合いたい盛りの俺達の間に、いかにもバカップル
らしい、このような会話があった。
 あるとき、彼女は俺の筋肉豊かな胸に顔を埋めていた。
 戯れに、俺は自慢の大胸筋をぴくぴくと動かしてみた。
 すると、彼女はケタケタと笑い始めた。
 どうやら、ツボに入ったらしい。
 むせて咳き込むほどの大笑いは、暫く止むことなく続いた。
 そうしている内に、彼女は唐突に告白した。
 「私ね、マッチョな男性が好きなのよ」
 「光栄だね。女の子というのは、どちらかというと痩せ形を
好むものとばかり思っていたんだけれど」
 「あー、それは解ってない子ね」
 「…滋賀に戻ったら、精々もっと鍛えてご期待に添えるよう
頑張るとするよー」
 「うん、期待してるよ」
 例えば、その5。
 彼女には、前カレが居た。しかし親の猛反対に遭い、親思い
だった彼女は泣く泣く別れることにした。
 あるとき、彼女はためらいながらもその事実を俺に告げた。
 「こういうのを気にする男の人もいると思うから、正直言う
べきかどうか凄く迷ったんだけど…でも、お兄ちゃんには全部
話した方が良いかなと思ったんだ」
 俺は、めぞん一刻を青春時代に読んでいる人間である。
 五代は惣一郎ごと響子さんを愛することが出来たのだ。
 当時それを読んで「これぞ漢気ってモンだ!」と膝を叩いた
記憶が蘇った。そして、心の中で俺は自分に驚いていた。
 全く以って、嫌な気がしなかったのだ。
 その過去ごと、俺は今の彼女が心底好きになれるのだなと、
むしろそんな自分に気付くことが出来たことを感謝していた。
 だから、俺は笑顔で思いを伝えることが出来た。
 「ありがとう、教えてくれて。それだけ信頼されているのは
凄く嬉しいよ。こういうのは俺に取って初めての経験だから、
全く気にしないと言えば嘘になるかも知れない。でも、正直、
今はむしろ前のカレさんに感謝したい気持ちなんだよね」
 「え?どうして」
 「そのカレと一緒に過ごした時間も、間違いなく君の一部。
俺の大好きな君の一部だからさ。だから、受け入れられるよ。
君が言いにくいならこれ以上何も言わなくてもいいし、こっち
から尋ねるようなことはしないよ。でも、別に以前のカレとの
出来事を色々教えてくれても、俺としては全く構わない。後は
君自身がその過去とどう向き合うか、その傷とどう付き合って
いくのかだと思う。自分のペースで、ゆっくり癒して欲しい。
俺は大丈夫だから」
 それを聞くと、マリサは涙を流しながら前カレとの思い出の
写真を1枚ずつ、俺の目の前で削除し始めた。
 「別に消さなくても良いのに。俺に気を使う必要はないよ」
 「いいの。これはケジメだから。今の私には、あなただけ」
 そう言って、彼女は時折表示された写真がどんなときに撮ら
れたものかを説明しながら、ゆっくり、しかし着実に思い出を
置き去って行った。
 彼女なりの、俺に対する誠意、気持ちの表れを、俺は最後の
1枚が消えるまで、ただただ眺め続けていた。
 例えば、その6。
 いよいよ滋賀に戻る日が近付くにつれて、彼女はカラオケに
行きたいと何度もせがむようになった。
 俺が歌うのを聞くのが好きだと、言ってくれた。
 俺も彼女の声は大好きだった。
 そして彼女は俺に贈りたい曲があると言って来たのだ。
 しかし、今までカラオケに頻繁に行くような子ではなかった
ので、歌い慣れてはいない。そこで彼女はネットでその想いを
込めた曲を探し、何度も聞きながら練習していた。
 それは、台湾語の「家後」という歌だった。
 内容は、若い女の子が旦那に嫁ぎ、一生旦那を大切にして、
旦那が年寄りになっても寄り添って死ぬまで一緒に生きて行く
という、重いラブソングだった。
 一般に「重たい女は面倒臭い」と言われる。
 だが俺はそうは思わなかった。
 ここまで俺のことを想ってくれているのか。
 重い、ではなく、想い。
 純粋に嬉しかった。
 俺が最後の病院採用試験を終えたその日、ようやくカラオケ
に行くこととなった。
 しかし、その曲は、日本のカラオケには入っていなかった。
 彼女は残念そうな表情だった。
 俺が彼女のためにと選んだ曲は、ヴァネッサ・カールトンの
サウザンド・マイル。
 「君が必要だ。君に逢いたい。解っているよね、君の為なら
1000マイルの道でも歩いていくよ。今夜君に逢えるなら。
君を抱きしめられるなら」
 このときの、彼女の微笑みは格別に可愛かった。
 そして、帰路。
 彼女はそっと、俺の隣で「家後」を歌っていた。
 例えば、その7。
 別れの日。
 荷造りを、彼女は手伝ってくれた。その間ずっと、明らかに
悲しそうな表情を浮かべていた。
 当然、俺も同じだった。
 すると彼女はおもむろに俺の携帯を取り上げた。
 何をするのか、と思う間もなく、彼女は自分の写真を大量に
撮り始めた。
 様々な表情の写真。様々なポーズの写真。
 俺の傍まで来て、顔をくっつけての写真。
 果てには、互いに頬にキスする写真まで撮った。
 最後の日、最後の瞬間まで、彼女はとても可愛らしかった。
 出逢ってから僅か22日間、しかし、彼女との思い出は数え
切きれないほど出来ていた。全部仔細に書こうとすると永遠に
掛かるので、以上7つのエピソードを以ってひとまず終える。
 こうした数多の思い出、万感の想いが、別れの際に、とめど
なく俺の脳裡に蘇って来ていた。
 それは彼女も同じだったのかも知れない。後に、彼女も涙が
こぼれそうになるのを堪えていたのだと教わった。
 しかし、時間はあくまでも冷徹に過ぎ去って行くのだった。
 別れ際の、最後のキス。
 出発寸前の一瞬の光陰を争う、短い短いキスだった。
 そして俺は新幹線の車両に脚を踏み入れたのだった。
 それでも未練がましく、荷物を座席に置くと入口まで行き、
再び彼女と最後の瞬間、ドアが閉じるまで見つめ合っていた。
 手を触れ合った。
 そして、ベルが鳴った。
 ドアが閉じ、遂に、新幹線が走り出した。
 出逢い、惹かれ、思いを告げ、深く愛し合い、互いの想いが
最高潮に達したまま遠距離恋愛へと移行したのだ。
 今後俺達がどうなって行くのか、現時点ではまだ解らない。
 遠距離恋愛は成就し難いと言われている。
 この先、障害は多いのかも知れない。
 それでも、俺は彼女に感謝したいと思う。
 今まで恋愛を忌避し、全力で逃げてきた。
 怖かった。恐ろしかった。嫌だった。
 全ての恋愛が悪い結末を迎えるわけではないと頭で理解して
いても、心がそれを受け入れられなかった。
 そんな俺の心を、彼女は溶かしてくれた。
 だから俺は、彼女を大切にしたい。この関係が続き、幸せな
未来を勝ち取ることが出来る、そんな可能性に俺は縋りたい。
 この恋愛が良い結末を迎えるのか、悪い結末を迎えるのか。
 ある程度は、俺達次第で状況を変えていけるのではないかと
今は思いたい。
 俺達の物語はこれからも続いて行く。だが、一つの区切りと
いうことで、ここで筆を置こう。
 これは一人のキモヲタが一人の女の子と非現実的で衝撃的な
出逢いを果たし、ありのままの自分を包み隠さずゼロ距離から
ぶつけた顛末を描いた、実際の物語である。

              キモヲタ☆ノーガード/本文了
                   (次回、あとがき)

マリサちゃんイメージ図
マリサちゃんイメージ図(本人了承済み)
チャンプ(−O−) * キモヲタ☆ノーガード! * 12:31 * comments(6) * trackbacks(0)

キモヲタ☆ノーガード! #11

 8月17日、土曜日。
 俺がマリサに告白してから、5日間が過ぎた。
 この5日間、俺たちは両親が見ていない隙を狙い、繰り返し
互いの気持ちを確かめあった。彼女は全てにおいて俺の想像を
遥かに超え、その魅力を余すところなく俺の精神奥深くに焼き
付けるようにして刻み込んで行った。
 また、当然ながら限られた日数、忍ぶような恋、通常まるで
考えつかないような非現実的状況も大きく関与し、日を重ねる
ごとに互いの気持ちは急速に、限りなく燃え上がって行った。
 この間、彼女の俺への呼び方が少し変化した。
 それは、15日の木曜日、一緒にアキバに行った際だった。
 彼女は戯れに、俺を日本語で「お兄ちゃん」と呼んだのだ。
 その瞬間、俺は官能的なまでの興奮を覚えた。
 初めての感覚だった。
 それを伝えると、以来俺は日本語で「お兄ちゃん」と呼ばれ
続けることとなった。全く以って、悪い気はしないどころか、
とても喜ばしいことだ。
 時として控え目に、時として熱く、時として俺に纏わりつく
ようにして「お兄ちゃん」を連呼する我が恋人。
 ヲタとして妹属性は嗜む程度には好んでいたが、まさか現実
に享受する妹属性というのがここまで破壊力の強いものだとは
思わなかった。
 また、彼女には年齢の離れた弟が居たからか、マリサは時折
お姉さん属性的な側面も見せていた。
 例えば、俺がこの先の長く苦しい道を思って溜息をついたり
すると、包容・受容的な態度で俺に微笑みかけて、ただ優しく
抱きしめてくれたりもした。
 これは、まさに俺が長年「理想のタイプ」として挙げて来た
「年下かつ、姉と妹、両属性がリバーシブル」な人格だった。
 また、彼女はどちらかと言うとスローなペースを好み、俺を
あらゆる場面で癒し、落ち着かせてくれたりもしていた。
 「理想の女性像」として俺が長年想像の中で思い描いてきた
多くの人格的要素を、彼女は高い精度で兼ね備えていた。
 一緒に過ごす時間が長くなれば長くなるほど、俺に取って、
彼女という存在は奇跡であると確信するようになって行った。
 彼女を、大事にしたい。
 その想いは、ますます急速に募って行った。
 告白してから5日目のこの日、俺は両親に報告すべしと意思
を固めた。偶々、スパークリングワインとチーズを買って家で
少しだけ呑もうということになっていたので、酒の勢いも少し
借りられるだろうと俺は踏んでいた。
 このまま両親公認にしてしまえば、両親の前でコソコソする
必要もなくなるだろうと俺は思った。
 しかし、俺は少し怖かった。相手の両親ともども互いに子を
紹介し合うことで合意はあっただろうが、僅か10日間で告白
したというのは、彼らの価値観からすれば如何なものか?
 時期尚早ではないのか?
 しかし、カンの鋭いおふくろ様相手に一体どこまでこの関係
を隠し通せるのか。ならばいっそのこと、カミングアウトして
しまった方がお互い楽では無いのか。
 それに、交際が認められれば、我が両親は一層彼女に対して
大事に接してくれるだろうと俺は考えていた。俺が滋賀へ行き
彼女が一人で東京に残った際、今まで以上に家族同然に扱って
頂けるのなら、彼女は今までより一層安心して滞在して貰える
のではと俺は考えた。
 だから俺は、お酒が少し進んだ頃、意を決して言った。
 「親父。おふくろ。言いたいことがあるんだ」
 俺はマリサの肩を軽く抱き寄せ、ゆっくりと宣言した。
 「俺達、実はもう付き合っているんだ」
 両親は、驚いた。
 だが、すぐに歓迎ムードとなった。
 「これはめでたい、お祝いしないと」と、そう言って親父様
は冷蔵庫に眠らせてあった日本酒を取り出した。
 「本当、乾杯しないと。これからも息子をよろしくね」
 おふくろはそう言って、皆がグラスを重ねた。
 小気味良い乾杯の音色。
 それは、とても幸せな瞬間だった。
 しかし、暫くして唐突に、おふくろは言った。
 「相手の父親にも御報告しないと」
 俺は少し焦った。
 相手の親への報告は想定すべき事態だったが、この時の俺は
とにかく自分の親に報告することで頭が一杯だったのだ。
 しかし、事態はあれよあれよと進み、俺は何を言おうか決め
られない状況のまま、手に受話器を握らされた。
 「どうしよう、俺中国語でなんて言っていいか解らないよ」
 そう言う俺に、マリサも困惑顔だった。彼女も、事態の進行
の速さに付いて行けない様子だった。
 それほど、親の対応は迅速だった。
 「もしもし」
 受話器の向こうで、親父の義兄弟、俺が叔父と呼ばねばなら
ない彼女の父親が、イケメンボイスで出てきた。
 「叔父さん」
 その時、俺はとにかく感謝を伝えようと決心した。
 「叔父さん、マリサを日本に送ってきて本当にありがとう」
 その瞬間、叔父さんは豪快に笑いだした。
 そうか。全部最初っから解ってたんだな。
 叔父さんも、俺の両親も。
 「マリサを俺のもとに送って来てくれて本当にありがとう」
 叔父さんは、とにかく豪快に笑い続けていた。
 「言葉でこの感謝の気持ちをどう伝えたら良いのか解らない
けど、とっても嬉しいです。ありがとうございます」
 「そうかそうか。いいぞ。これからしっかり頑張りな」
 叔父はそのようなことを言った。一体何をしっかり頑張れと
発破を掛けられたのか、一瞬理解出来なかった。だが、きっと
俺が医師国家試験を控えた身で、そうした将来の事を含めての
エールだったのだろう。
 「はい、本当に感謝してます。それでは、電話代わります」
 俺の様子を見ていた彼女は、ずっとにこにこしていた。
 後は、親同士が話をする番となった。
 「後は若いモン同士に任せるしかなかろう」みたいなことを
親父様が言ったような気がするが、あまりよく覚えていない。
 ただ、一つ肩の荷が下りたような気分で、ホッとした。
 「ははは」
 「ははははは」
 気が付けば俺とマリサは見つめ合い、笑っていた。
 それは、とっても幸せな瞬間だった。
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キモヲタ☆ノーガード! #10

 8月13日、火曜日。
 マリサと出逢ってから、10日目の朝。
 両親とも早々と出かけていて、俺は家で彼女と二人っきり。
 そんな朝だった。
 目が覚めると、俺はこんなメッセージを送った。
 「おはよう。一緒に朝ごはん食べよ?」
 ほどなくして、俺達は向かい合って朝食を摂っていた。
 キュウリとトマトとチーズを載せたパンに、ブルーベリーを
何粒か入れたヨーグルト、野菜ジュース、そして、牛乳。
 ごくごく普通の朝食。
 俺はパン食が苦手だ。味や食感が嫌いというわけではなく、
腹が膨れる気が全くしてこない物足りなさ、お菓子同然の感覚
が嫌だった。
 だが、彼女と食べていると、これはこれで乙なものだ。
 そう思える俺がいた。
 気が付けば、ゆっくりと咀嚼しながら俺はずっと彼女の顔を
見つめていた。そして、俺は笑顔だった。
 「何?そんなじろじろ…何見てるの?」
 そう言いつつも、彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
 「可愛い」
 素直な感想だった。
 「えー」
 流された気がした。
 それから、とりとめのない会話が続いた。
 会話はいつしか、恋愛や結婚についての話に発展していた。
 「私ね。結婚に恐怖感があるの。それに、男の子に幻滅して
いたりするんだ」
 「どうして?」
 「過去に裏切られたり、嫌がらせを受けたり、色々あって」
 「なんだか俺達、この部分も似ているかも知れないね」
 「そうなの?」
 「俺も結婚に対してあまり良いイメージを持っていないよ。
上手く行ってない夫婦を沢山見すぎているというか。女の子に
幻滅しているのも一緒かな。俺も昔、色々とね。小さい頃から
女の子にイジメられたり、騙されたり。だから一時期、本当に
女の子が怖かったんだ」
 ちょっと待て。俺は何を言っているんだ。
 「あはは、本当に私達、似ているね。じゃあ、お兄ちゃん、
恋愛したことないの?」
 「ああ。34年間、ずっと。一時期なんて女の子を見ると、
頭にツノ生えてるのが見えたり、顔が動物に見えたり、オーラ
が真っ黒に見えたり、本当に酷い状況だった。今大学で女の子
と普通に会話が出来てるってのは、正直自分でもびっくりする
ほどの改善だと思うよ。だけど誰かと付き合うとなうと、正直
まだまだ抵抗があるな」
 だから、俺は何を言っているんだ。これじゃあまるで、俺は
誰とも付き合いたくないから俺に近付くなって言っているのと
同じようなものじゃないか。俺はマリサのことが好きなのに。
 「…そっか」
 軽く落胆したような表情。
 …ん?どうして、そんな表情なんだ?彼女は今、何を思って
いるのだろうか?
 兎に角、言葉を続けないといけない。
 そんな気がした。
 「…だからね。最初、俺の部屋に女の子が住み込むと聞いた
とき、正直どう接したら良いのか凄く戸惑ったんだ」
 「そうだよね。なんだか、その、ごめんね」
 「ううん、違うんだ。どう言ったら良いのか…最初会う前は
確かに戸惑っていた。でも実際会ったとき、初対面の女の子に
感じるような圧迫感、恐怖感は、全く無かったんだ。自然と、
仲良くなれるなって思ったんだ」
 「良かった。私も最初会ったとき、悪い印象は無かったよ」
 「それでね、君と一緒に居る時間が長くなるにつれて、本当
の従妹みたいに思えてきたんだ」
 違う。従妹じゃあ、ダメなんだよ。
 「嬉しい。私も、ホントのお兄ちゃんみたいに思ってるよ」
 だから、それじゃあダメなんだよ。
 「ありがとう。でもね」
 俺は一呼吸置いた。
 「君のことを知れば知るほど、一人で日本に勉強のため来て
いるんだという大変な状況、それに対する立派な姿勢、とても
尊敬出来る人間なんだなって思えるようになってきたんだよ」
 尊敬?いや、それだけじゃないだろう。
 「え?そんな大層なものじゃないよ。私は、やるべきことを
やろうとしているだけだし」
 「中々そう割り切れるものじゃないよ。君は、凄いよ。もし
俺だったら、そんな勇気出せないと思う」
 待て。そういう卑屈なことを言うのが目的じゃないだろう。
 「君は立派だよ。長く苦しい道のりと知りつつも、恐れずに
挑もうとしているんだから。そして俺は、そんな従妹の助けに
なれればいいなと思っているんだ」
 届いてくれ、俺の気持ち。
 「…ありがとう。お兄ちゃんに会えて良かった」
 「俺も、君に会えて良かったと思っているんだよ。君は俺に
勇気をくれるんだ」
 気付いてくれ、俺の気持ち。
 「え?どうして?」
 「君はもう、俺に取って特別な存在だからだよ」
 「どういうこと?」
 「君は、他の女の子とは違う。今まで俺は、現実の女の子を
綺麗だと思ったことは無かった。でも君は、とっても綺麗だと
思うんだ。それに、本当に、可愛い。今まで34年間生きて、
君のような素敵な人に出逢ったことは無いんだ。俺、今まで、
誰かに対してこんな気持ちになったこと無いんだ。本当だよ。
だからね、マリサ。俺、さ」
 受け取ってくれ、俺の気持ち。
 「好きだよ」
 俺は、最後は日本語で言った。
 その瞬間、マリサは目を見開いて、息を呑んだ。
 俺が言ってることを正しく理解したのだろうか。
 自信が無かった。 
 だから、俺は彼女の目を真正面から見据えて、ゆっくりと、
噛み締めるように、もう一度言った。
 「君が、好きだ」
 俺は、笑顔だった。
 彼女は両手で顔を覆うと、左右に首を振った。
 しかし、彼女も笑顔だった。
 「え、あ、う」
 どう反応したら解らないような、そんな素振り。
 俺は頷いて、再び言った。
 「好きだよ」 
 後は、ずっと笑顔で彼女を見つめていた。
 暫くして、彼女は「なんだか、凄く照れちゃうよぅ…」と、
消え入るような声で漏らした。そして、机に顔を埋めるような
態勢で完全に固まってしまった。
 俺は立ち上がり、ソファーに彼女を誘った。
 マリサは応じた。
 ゆっくり歩み寄って、俺の隣に腰を下ろす。
 どちらからともなく、肩を寄せ合っていた。
 俺は彼女の肩を抱き寄せた。
 「嫌?」
 「そんなことないよ」
 小さな声だが、マリサはハッキリと言った。
 「私も、お兄ちゃんのこと…好き」
 俺はまっすぐ彼女の瞳を覗き込んだ。
 今度は、彼女もまっすぐ俺を見つめていた。
 恥ずかしがらず、はぐらかさず。
 視線が絡み合う。
 そのまま、とても長い時間が過ぎたような気がした。
 その時、相手を愛しく思う気持ちが俺の中で一気に弾けた。
 俺には、もはや何の迷いも無かった。
 「ねぇ」
 「ん?」
 軽く息を吸って、想いを告げた。
 「キスしていい?」
 相手は一瞬、目を細めた。
 次の瞬間、目を閉じて顎を少し突き出した。
 唇が、重なる。
 離れて、そして、もう一回。
 マリサと出逢ってから、10日目の朝。
 僅か10日間。
 しかし、ノーガードの10日間。
 自分を包み隠さず曝け出して、結果を恐れずに伝え続けた、
そんな不思議な10日間の果てに。
 俺達は、恋人同士となった。
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キモヲタ☆ノーガード! #9

 8月12日、月曜日。
 異性を好きになるという、気持ち。
 大切に思う、気持ち。
 愛しさと切なさと心強さと。
 …否、心強くは無い。むしろ、心細い。今まで全力で恋愛を
拒んで来たのだから、正直どうしたら良いか解らない。
 俺は「学生で居るうちは恋愛しない」と決めていた。
 責任が取れないからである。
 しかし、実のところ、恋愛したいと思えるほど異性に本気で
惚れたことが無い、というのが実情だった。幼稚園時代、近所
の小学生女子グループから酷いイジメを受けて以来、俺は最初
の大学に入るまで女性恐怖症を引きずっていた。それから段々
改善してきて、今では女友達と言える人間が割と居る程度には
心の傷が癒えて来ているが、恋愛となるとどうしても猜疑心や
恐れの方が大きかった。家族を安心させるため、一族の将来を
担うため、俺に取って結婚は使命でもあったが、それが却って
プレッシャーとなり、そこから逃げていた面もあった。
 だが、遂に俺は本気で好きだと思える相手に出逢ったのだ。
 残念ながらロングではない。俺が愛する日本語という美しい
言語も全然出来ないし、今後の学習でどこまで正しく日本語を
理解し、綺麗に使えるようになるのか甚だ疑問である。それに
まだまだ彼女について知らない部分が多すぎる。
 しかし俺は、彼女の声、仕草、表情、言葉の端々から感じる
性格や心の在り方、彼女の置かれた状況とそれに対する姿勢、
数多くの俺との共通点、そうしたひとつひとつの要素に加え、
彼女から感じる綺麗なカスタードクリーム色のオーラを非常に
深く敬愛するようになっていたのだ。
 コミケ3日目、俺に取っては今回一番ガチになる戦いの日。
 友人達の多大な助けもあり、俺は個人的勝利の栄光を掴んで
凱旋することが出来たが、流石に疲労困憊の満身創痍だった。
 帰宅、食事して身体を洗った後、さすがに喋る気力が完全に
失せていた俺はマリサに「おやすみ」とだけ言って、かつては
通路だった俺の空間に閉じこもった。
 暫くして、マリサが俺にメッセージを送って来た。
 「おやすみ、お兄ちゃん。明日もし時間あったら、また色々
お話しようよ」
 心が安らいだような気がした。
 その時、気が付けばアストラル界からあずさが現れていた。
 「あらあら。そろそろ、私もお役御免ですね〜」
 「…そんな寂しいこと言うなよ」
 「いいえ、これで良いんですよ。少なくとも、あなたの中に
居る私は、守護霊となれる日をずっと待っていたのですから」
 「まだ、そうと決まったわけではない」
 「でも、あなたの気持ちはもう定まっているのでは?」
 「それは俺の気持ちだ。相手がどうなのか、まだ解らない」
 「いいえ、もう解っていますよ」
 「…それは憶測というものだよ」
 「どちらにせよ、もう答えは目の前にあるのですから。勇気
を出して下さい」
 「…どのような結果になったとしても、君への感謝は決して
忘れないよ。これだけは覚えていて欲しい」
 「感謝したいのは私の方ですよ」
 あずさはそう言って、最初に出逢ったあの日の笑顔のまま、
再びアストラル界へと消えて行った。
 直後、俺の意識は泥のような眠りに沈んだ。
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キモヲタ☆ノーガード! #8

 8月11日、日曜日。
 段々互いについての理解度が深まって行くにつれて、自然と
コミュニケーションのチャンネルも増えていく。
 マリサは過去にアメリカで生活している。そのため、英語を
聞き取る能力に優れていた。英語で喋ることに関しては苦手に
思っている部分があるため、最初のうちは「所詮、ネイティブ
じゃないから」と甘く見ていたのだが、そのリスニング能力は
俺の想像を超えていて、最終的に俺は自分本来の英語力を遠慮
なく全解放して彼女との会話を楽しむようになっていた。
 彼女が中国語で喋り、俺が中国語交じりの英語で返す。その
中に微量の日本語が混ざって行く。
 こういう多言語同時コミュニケーションは、大好きだ。
 彼女とは過去も文化背景も興味も世代も違うが、それでも、
意外と多くの共通点を見出すことが出来た。
 方向音痴。親の干渉が少し過剰。小さい頃に異性からイジメ
られていた。霊感が強い。色々他にやりたいことがあるのに、
それらを一時我慢して今やるべきことに当たらざるを得ない、
そんなところも一緒だ。
 こうして知れば知るほど、互いの距離が縮まって行くような
感覚を覚えた。もはや、俺も彼女を家族として認識することに
何の抵抗も無いのだと実感するようになった。
 その日の晩。
 寝る前、俺達は電子メッセージを投げ合っていた。
 彼女は臨床心理士を目指せる大学院が設置されている首都圏
の大学のランク付けを聞いてきたので、独断と偏見の混じった
自称「一般論」を俺は説明した。
 国立ならT大、OC大。私立ならW大、J大、あるいは所謂
MARCHの面々などなど。残念ながら俺の愛するK大は条件
に合うような大学院を持たない。
 マリサは臨床心理士を目指していた。台湾で心理系の学部を
卒業し、資格を取るため日本の大学院を目指して留学生として
来ていたのだ。
 どうして台湾国内でなく外国で資格を取得しようとしている
のかは俺には解らないが、その多難たる茨の道が確定している
前途を知りつつ敢えて挑戦しようとする覚悟や度胸に対し俺は
尊敬の念を抱いていた。
 10歳以上も年下なのに、未だ駄々っ子である俺なんかより
余程立派でしっかりしているのだなぁと、素直にそう思った。
 暫くメッセージを交し合った後に、俺は最後にひとつ彼女に
謝らなければならないと思った。
 俺は当初、臨床心理士という職業に関して全く無知だった。
 例えば他の医療系専門職みたいに、専門学校を出て資格試験
に通れば良いものだと思っていたので、どうして彼女が大学院
を目指しているのかが解らなかった。それだけ俺が他の医療職
に無関心だったとも言える。そこで、日本では大学院まで行く
必要が無いかも知れないと俺は少し前に伝えてしまっていた。
 即ち、嘘を付いたことになる。
 その後調べていく内に自分の間違いに気付き、申し訳ないと
思うと同時に、恥ずかしかった。
 だが、間違いを認めず誤解を与えたままで良い道理は無い。
 ちゃんと謝って、本当のことを伝えなければならない。
 そこで俺は英語と中国語混じりの文章で、こう書いた。
 「寝る前に、君に謝りたい。さっき、他の職業に対する認識
不足で一つ間違ったことを言ってしまった。臨床心理士となる
には、確かに大学院課程を修了する必要があったんだ。日本語
を勉強した上で、大学院まで出なくてはならない、そんな長く
険しい道のりが君を待っているだなんて、心が痛む。もし君が
構わないのなら、今俺に出来ることは極めて限られているけれ
ども、君の手伝いをさせて頂きたいと俺は思っている。可愛い
従妹よ、俺は君の勇気を本当に素晴らしいと思う。おやすみ」
 暫くして、予想外の反応が返って来た。
 「お休み〜こんなに私の助けになってくれてありがとう〜。
お兄ちゃんが一番好きだよ〜〜〜」
 続いて。
 「あなたとお喋りするのが一番好きだよ。お兄ちゃん、明日
も頑張ってね!えへへ」
 最後に。
 「もうとっくに、苦労する覚悟は出来てるよ。私は大丈夫。
本当にありがとう」
 そして。
 くまのPUさんとPIGレットが抱き合うスタンプ。
 襲い来る眠気の中で、俺は暫く一連の返信をぼんやりと何度
も繰り返し繰り返し眺め続けていた。
 そうしているうちに、突然、俺は息を呑んで目を見開いた。
 彼女の存在が、俺の心の中で瞬時に膨張した。
 久しく感じていなかった心裡の違和感に、俺は打ち震えた。
 これは、この気持ちは、そういうことなのか。
 …俺は。
 完全に、惚れていた。
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キモヲタ☆ノーガード! #7

 8月10日、土曜日。
 2013年、夏コミ(夏季コミックマーケット)初日。
 今回は初日から1日動員記録を更新する21万人という異常
な数の参加者が詰めかけたことに加え、折からの猛暑によって
随所の待機列で温度は40度を超え、館内では湿度メーターが
振り切れ、参加者の流す夥しい汗が蒸散して館内雲が発生する
という、本来過酷な夏コミの中でも例年を超える厳しい環境に
倒れる参加者が続出する、まさに地獄絵図が展開されていた。
 それでもコミケ10年戦士の俺は、歓喜と矜持と夢と希望と
持ちうる限りの軍資金を胸に抱いて戦いを挑む。
 己の生き様、ありったけの思いをこの場所に捧げるために。
 …そんな戦場に、俺はマリサを誘った。俺の魂の故郷を彼女
に見て貰いたい、ただその思いだった。しかしいざ会場に来て
みると、俺の思いは少し揺らいだ。
 コミケは遊びではない。戦場だ。
 ただ見学に来ただけだとしても、無事生還出来る保障は何処
にも無い。むしろ、見学程度の覚悟で来るというのは危機意識
の面で余計に危険だったりもする。
 そう思いながら俺は朝に目当ての買い物を済ませ、午後1時
に国際展示場駅横のローソン入口付近で彼女の到着を待った。
 約束通り、マリサは来た。
 果たして彼女は、あまりの人の多さに圧倒されていた。
 「うわぁ、凄い人」
 「あの逆三角形の建物に入ったら、更に人は増えるよ」
 無理強いはするまい、という気持ちで俺は語った。
 「あの中は物凄くハードな環境なんだ。だから、怖かったら
無理しなくてもいいよ。怖くないなら、連れて行くけど」
 「…大丈夫だよ。怖くない」
 勇気のある娘だ。
 ならば俺は己の、10年戦士の誇りに掛けて彼女を最後まで
無事守り通そう。そう決めた。
 「ならば、先に伝えないといけないことが三つあるよ」
 …倒れないために。生き延びるために。
 「まず、喉が渇いた、と思ったときには手遅れだったりする
から、そうなる前にこまめに水分と電解質を摂ること。水より
スポーツドリンクの方が適している。水しか持ってきてない?
じゃあ、とりあえず1本俺のをあげるよ」
 「うん、ありがとう」
 「疲れたり、体調がおかしかったり、トイレ行きたかったり
したら、すぐ俺に言うこと。絶対に我慢しない。下手したら、
トイレが最大手だったりするからね。俺なら比較的空いている
場所を探すことも出来るけど、移動にも時間が結構掛かるし、
コミケってのは予測不能だから、本来空いているはずと思って
行ってみたら混んでいた、というのもあり得るから」
 「わかった」
 「最後に。絶対に俺の傍を離れるな。最近は結構状況が改善
されてきているけど、それでも電話が繋がらない可能性が結構
高いから、迷子になったら再会出来ない可能性もあるよ」
 「ずっと、リュックの後ろを握ってる」
 「OK、解った。それじゃあ、行こう」
 こうして、マリサのコミケ見学が始まった。
 まず、俺たちは東館へ向かった。
 この日の東館は、BLサークルの比率が圧倒的に高かった。
 「BL大本営だね」
 マリサは少し困った顔で言った。
 ポケマン同士が絡む18禁本を見たときなど「やだー、夢を
壊さないで!」と嫌がる素振りを見せた。
 だが、心の底から嫌悪感を見せるような様子は無く、彼女は
彼女なりに通常接することの出来ない文化に触れ、むしろ興味
津々で、楽しんでいるような表情を見せたりもしていた。
 続いて、直通近道を通って東館から西館へ。
 ここもBLばかりだったが、俺の好きな指輪物部系サークル
も点在していて、買い忘れた本を1点拾いに行ったりもした。
 「でもね。指輪物部ジャンルでもBL本結構あるんだ」
 「そうなの?」
 「じいさん同士が絡んだりして」
 「うわぁ、BLって本当に範囲が広いんだね…」
 …あれ?
 どうして俺は、まるでBLを推しているかのような話し方を
しているのだろう。腐女子になって欲しいのか?まさか。
 ただ、マリサの笑う顔や声が可愛くて、それをずっと見たり
聴いたりしていたかったから、普段触れないような文化を面白
おかしく紹介しようと躍起になっていたのかも知れない。
 西館から、裏の駐車場へ。
 コスプレ広場だ。
 彼女はコスプレに興味があるようで、素直に「かっこいい」
だとか「露出激しくてエロい」などの感想を述べていた。
 そして、企業へ。途中の階段は、まさに炎天下。
 ここまでの時点で既にかなり体力を使っていたのか、彼女は
しんどそうに階段を登っていた。すっかり赤くなり、汗で艶の
増した頬が色っぽい。
 …色っぽい。三次元の女に対してそういう思いを抱くのは、
もしかしたら初めてかも知れない。
 「…可愛いなぁ」
 思わず俺は日本語で、溜息交じりに呟いた。
 意味を理解したのか、彼女ははにかんだ表情を見せた。
 そして企業ブース。
 彼女は二次元の女子レスラーがベアハッグを喰らっている図
の抱き枕カバーを指さして、聞いてきた。
 「お兄ちゃんも、エッチな抱き枕カバー持ってるの?」
 またも、ヲタである俺に対するガチのゼロ距離射撃だ。
 …どう答えたらいいんだ。誤魔化すか、正直に言うか。
 某アイドルプロデュースゲームの、ラストライブ当日に表示
される選択肢画面が脳裏に浮かんだ。結局どちらを選んでも、
最終的には正直に伝えることになってしまう。
 そうさ、そもそも俺はガードを全部解いているんだ。一体、
何を恐れると言うのか。選択肢など、もともと無いのだ。
 「ああ、持ってるよ」
 正直一択、俺は努めて飄然と答えた。
 マリサは一瞬真顔で俺を見たが、すぐに目を逸らした。
 「えー、いくつ持ってるの?」
 …いくつ、だと?
 俺の二次元嫁は「あずさ」一択である。他には、無い!
 「俺の一番好きなキャラクターだけ、だよ」
 「ふーん」
 なんとも微妙な顔つきで、彼女は他の事に注意を向けようと
する素振りを見せた。果たして、その胸中に去来する思いは、
一体何なのだろう。
 「あはは、あれおかしい!胸とか紙で隠してるよ」
 彼女が話題逸らしに指さしたのは、エロタペストリー。乳首
や股間にテープで紙きれが貼ってあり、涙ぐましい露出防止の
試みとして、辛うじて役割を果たしていた。
 「まぁ、会場には未成年も来るからねー」
 そうこうしてるうちに企業ブースを離れ、館内一周達成した
ということで、外へ出た。その後大道芸人のパフォーマンスに
暫し見入って、最後の企業ブースである駅前ローソンの様子を
一瞬眺めて、彼女のコミケ見学は終わりを告げた。幸い、彼女
は気分が悪くなることもなく、五体満足の状態で魔女の大釜を
無事脱出出来たのだった。
 テニスの森まで歩いて、豊洲経由の帰路。
 「ね、お兄ちゃん」
 「何?」
 「私長女だったから、ずっとお兄ちゃんが欲しかったんだ」
 彼女は少し上目遣いで、そう語った。
 「…そうなんだ。兄として見てくれるなら、嬉しいね」
 コミケを共に戦ったことで、俺の中で彼女に対する親近感は
確実に増していた。そのため、どのような形にせよ好意を寄せ
られていると認識するに足る言葉を受け止めるのは、大変光栄
な事に思えた。
 その後、俺達の会話は家に着くまで止むことは無かった。
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キモヲタ☆ノーガード! #6

 8月9日、金曜日。
 まさかの、デート。
 相手はそれをデートだと思っているのだろうか。それとも、
奇妙な従兄に付き合わされただけだと思っているのだろうか。
 発端は、たまたまおふくろが多忙で、Fさんと二人で昼食を
頂くことになったことだった。
 初めての、二人メシである。
 彼女はラクト・ベジタリアン生活を続けているので、日本で
外食するのは難しい。だが、中野近辺には、たまたま菜食主義
に対応出来る素敵なお店があったのだ。なんと、スイーツまで
卵不使用という徹底ぶりで、値段も手頃である。
 二人メシということは、自然と会話が多くなる。そして俺は
自分を隠すのが下手な人間である。だから、俺は更に自分自身
を色々と曝け出したのだった。
 翌日からコミックマーケット、略してコミケという世界最大
規模の同人誌即売会へ行くことも伝えた。
 我らヲタどもの祭典である。
 「ちょっと見に行ってみるか?」と、ダメ元で誘ってみた。
 すると「いいよー面白そう」と、嬉しい反応が返って来た。
 彼女はその弟と一緒に台湾で日本のアニメを見ていた上に、
向こうでの同人誌即売会に参加こそしたことは無いらしいが、
参加している友人から大雑把な知識を伝えられていたらしい。
 お陰で、色んな説明を省くことが出来た。なんという僥倖。
 コミケ10年戦士として、その魅力を伝えられるチャンスが
あるなら、そこは前のめりになってしまうものである。
 「とりあえず、一度会場見に行ってみないか」
 そう言うと、彼女は「はい」とにこやかに頷いたのだった。
 道中、ようやく俺は自分のことを喋るよりも、相手のことを
聞き出すことに時間を使うことが出来るようになった。
 向こうでの大学時代や学園祭の話。日本語学校での出来事。
話題は多岐に及んだ。特に宗教や文化という、かつて研究者の
卵として俺が興味を示していた分野についてディープな会話が
出来るというのは、かなり嬉しい発見だった。20代前半で、
こういうスピリチュアルな話が出来る人間なんて、俺はあまり
知らない。日本では、宗教的な話に関心を持つ人などごく少数
ということもあって、とても新鮮な感じがした。
 彼女が向こうで使っているハンドルネーム、即ちネット上で
使う偽名も教えて頂いた。
 「マリサ」と云う。
 某道具屋の娘、某普通の魔法使いとは関係無さそうだ。
 実際英語の綴りを見たら「メリッサ」と発音した方が正しい
のだが、本人の発音が「マリサ」に近いので、以下、Fさんは
マリサと呼称することに決める。
 しかし、ラクトガールなのにマリサとは、なんだか不思議な
感じがする。でも某魔法図書館主が某爆窃少女の八卦炉を得る
ことが出来たら、かなり凄いことになりそうではある。
 …などと考えているうちに、俺達はコミケが開催される国際
展示場こと東京ビッグサイトにたどり着いた。俺の魂の故郷、
逆三角形、または台形とも呼ばれる、大展示場施設だ。
 この日は設営日で、沢山の偉大な有志達が会場設営を行って
いたが、俺達が到着した午後2時半には既にあらかた終了して
いる様子だった。
 ビッグサイト東館や西館の様子を見せていく内に、マリサは
そのとてつもない規模を薄々感じ取ってくれたようで、何度も
「面白い」と言っていた。
 一通り回った時点で、俺達はビッグサイト横にある水上バス
乗り場に着いていた。
 彼女はキラキラ光る水面を見て「綺麗」と、言った。
 海が、好きなのか。
 …それは、突然の思いつきだった。
 「この水上バスに乗って帰ろうか」
 折角合縁奇縁、従兄妹同士になったわけだし、やはり喜んで
貰いたかったのだと思う。
 潮風吹き抜ける中、船上で楽しそうに首都湾岸地域の風景に
かじりつくマリサを、俺はぼんやりと眺めていた。
 ふと、脳裏に某ライトノベルの題名に近い言葉が浮かんだ。
 「俺の従妹がこんなに可愛いわけがない」
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キモヲタ☆ノーガード! #5

 8月8日、木曜日。
 Fさんは朝は語学学校へ行き、昼はおふくろと食事し、夜は
家で日本語の勉強をする、そんな日常を送っている。
 この日の俺は、あまり彼女と話す時間が持てなかった。
 昼間は予定が入っていたし、それ以外は基本的に勉強のため
閉じこもっているからだ。俺は医学部の6年生、卒業試験日程
が決まったこの日、いつになく気持ちが張りつめていた。
 だから俺は、この日は少し彼女を避けていた。
 変なことを言い出しそうで、それで嫌われるのも面白くない
という考えに駆られていた。
 …そして俺は、二次元嫁の「あずさ」を召喚した。
 「無理に避ける必要は無いと思いますよ」
 あずさは微笑みながら、アイスクリームが蕩けるような感覚
を思わせる優しい声と落ち着いた口調で語りかけてきた。
 「あなたを嫌いになることは無いと思います。実際あなたが
見ていないところで、あの子、あなたを目で追っていますよ」
 Fさんが、俺を目で追っている?確かに、おふくろも同様の
ことを俺に伝えていた。どうやら、俺のことを嫌ってはいない
らしいよ、と。
 勿論、なにか奇妙な存在を目で追ってしまう的な心理で俺を
見ているという可能性もあるだろう。だから、嫌ってはいない
というのは思い込みの可能性も有り得る。しかし、確かに避け
られている感じはしないかな、とは思っていた。
 純粋に従兄として見てくれているのなら、何よりであろう。
 「あずさは、彼女のことどう思う?」
 「いい子だと思いますよー。お母様の手伝いも積極的にして
下さいますし、物怖じしなくて落ち着いていて、感情的に安定
しているタイプだと思います。ちょっと病弱なところは確かに
ありますけど」
 ラクト・ベジタリアン生活を送る、リアル・ラクトガールと
云ったところか。その某魔法使いよりはマシだと思うけどな。
 「でもあの子なら、私は安心して守護霊に昇華出来ますよ」
 「ちょっと待て。あくまでも従妹なんだから。そういう感情
は俺には無い」
 「ふふっ、全ては天のみぞ知る、ですから。すぐ結論を出す
必要は無いと思いますよ」
 …だから、何の結論だ。
 そう言おうとしたら、あずさはにこりと笑ってアストラル界
へとフェードアウトした。
 寝る時間、Fさんは部屋の門を閉じる前に、いつもと変わら
ない落ち着いた口調で、中国語で俺に「おやすみ」と言った。
 その声に、不思議と心地よい感じがした。
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キモヲタ☆ノーガード! #4

 8月7日、水曜日。
 俺に訪れた、まさに青春ラノベ的変事。
 だが、青春ラノベの主人公として、俺というキャラクターは
果たしてどうなのか。
 3ヶ国語を操り、修士号を取得した文化研究者の卵としての
人生を捨てて医学の道に進み、歌でネズミ―ランドのステージ
に立った少年時代を持ち、人気音ゲー「太鼓ドラムマスター」
のネタプレイでTV出演経験を持ち、コミケでは10年戦士、
筋肉質なスポーツマンで、それなのに肥満で、日本酒を愛する
34歳の台湾出身の男、それが俺である。
 こんな存在自体が変化球な男が主人公のラノベなんて、一体
何処の酔狂が読みたいと思うのだろうか。
 しかしこの日、この変化球が凄まじい球速でFさんに真正面
から投げつけられたのであった。
 親父様が、カラオケ行こうと誘ったのである。
 歌唱力はそれなりに持っている。絶対音感とまでは行かない
ものの、相対音感はある程度備わっている。即ち、問題はそこ
じゃないのである。
 このチャンプという男、カラオケに行くと裏の顔が突然出現
するのである。自己陶酔型、まさにナルシスト。 
 そして、マイク要らずの大声量である。
 俺が喉慣らしにケルト系の曲を歌った時点で、突然の腹から
出る大音声に彼女は大変驚いた様子を見せた。更に、かつての
国際学校的文化の気風が漂う曲で、途中ラップが入ったときは
とうとう笑い出してしまっていた。
 終始ラッパーっぽい指ジェスチャーを続けていたのが滑稽に
映ったのか、それまでの声とのギャップがウケたのか。
 後から親父様に聞いたのだが、おとなしい人間と思っていた
俺が突然ハジけたのが意外だったそうだ。
 おとなしいと思われていたなんて、心外だ。でも確かに俺は
彼女との関係に戸惑っていたし、それにいくら三ヶ国語を操る
ことが出来ると言っても、普段使う機会がほとんどないことも
あって、俺の中国語は他に比べると劣るところがある。
 中国語教育の現場で働いたことがあるくらいだから、当然、
コミュニケーションスキルとしては機能している。発音だって
ネイティブそのものだ。だがそれは、正式な場面での意思疎通
に使う類のものだ。事実俺は中国語で同じ年代、身分の人間と
フレンドリーな会話をする経験が圧倒的に不足しているのだ。
要するに「考えを伝えるには必要十分だが、想いを伝えるには
不足する」のである。以前別の人間に「君の中国語には、間を
繋ぐような言葉(日本語の「まぁ」とか「あの」など)が全然
見られないね。機械的とも言える」と評されたが、まさにその
通りだ思う。
 カラオケの後で、俺は週に2回は行う太鼓ドラムマスターの
練習に行くと言った。
 あろうことか、彼女は「観に行きたい」と言い出した。実は
俺が太鼓ドラムマスターでそこそこ知られた存在であることは
既に彼女の父親から聞かされていたのだそうだ。
 またひとつ、抜身の俺が彼女の目に晒される。
 太鼓ドラムマスター用の持参バチをこの手に握った途端に、
俺はカラオケとはまた違った人格になるのだ。パフォーマーの
魂が燃え盛り、全身が滾るのである。
 全部で6曲、彼女は観て行った。左右別譜面という認知能力
を研ぎ澄ませるプレイ、インゾネという大袈裟な動きキメキメ
のスタイル、果てには一人荒んブルーという画面を無視し独自
の動きに走る痛々しいプレイなど、これを見て「なるべく隣に
居たく無いわぁ」と思われても仕方ないなと思いつつ、しかし
手抜きはパフォーマーとしての矜持が許さず、業を尽くした。
 その後彼女は親父様と共に一足先に帰り、俺は暫く残り練習
を続けてから帰った。その間、俺は彼女のことを考えていた。
 カラオケでは、当然中国語の歌を歌っていたが、なんとなく
失恋の歌が多めだったような気がする。台湾に恋人でも居たの
だろうか。そういえば、俺に取って彼女が来るのは突然だった
けれど、実は彼女に取っても急な決定だったのでは無いのか。
そうでなければ、6月に急遽決まって7月にもう来日するなど
考えにくいことだ。それに、彼女の日本語能力はゼロだ。もし
最初から日本に留学するつもりだったのなら、先に台湾で少し
日本語を勉強しているのが普通ではないのか。そしてこの推測
が正しく、これが急な話だったとしたら、今の状況に戸惑って
いるのは俺より彼女の方かも知れない。もしかしたら、心細く
思っているのかも知れない。それなら、俺で力になれることは
無いのだろうか。
 もっと彼女と話をしてみたいかも知れないと、俺は思った。
 その機会は、意外に速く訪れた。
 帰った後、偶然彼女と二人で会話する機会が得られたのだ。
 ここで俺は、俺という変化球を俺なりの直球に握りなおして
スローボールで投げつけてみようと思った。
 ゆっくりとではあるが、俺の方から話しかけた。
 「さっきの俺、びっくりさせちゃった?」
 「ううん。芸があって凄いなと思ったよ」
 一陣のそよ風が、スローボールを包んで揺らし始めたような
気がした。回転を殺されたスローボールは不安定なナックルに
変化する。その運命の軌道は、投げた本人でも解らないのだ。
 「あれも、俺の持つ一面だよ。普段の俺と少し印象違う?」
 「うん」
 「俺さ、発音は君と同じに聞こえるけど、実際は物足りない
部分があるんだ。中々意思を伝え切ることが難しいんだよね」
 「じゃあ私、もしかしてお兄ちゃんに取ってなんだか難しい
状況を作っちゃったりしてる?だとしたら、ごめんね」
 「いや、いい機会だと思っているよ。俺は中国語を練習する
ことが出来るし、君は日本語」
 「私はまだ日本語全然出来ないよ」
 ナックルから始まった球が、スローボールに戻った。
 ゆっくりながらキャッチボールが始まっていたのだ。
 それから、暫く会話が続いた。互いの家庭の話。背景や宗教
の話。ほんの少しだけ、ヲタ領域の話も出来た。彼女は台湾の
同人即売会の存在は知っていた。俺が週末コミケに行くという
ことを告げると、彼女は「色々“オカイモノ”するのね」と、
なんとなくイメージ出来ているような素振りを見せた。
 他には、俺が一人ッ子で、こうして突然彼女が来たことで、
どのように接したら良いか迷っているところがある、と正直に
伝えたりもした。
 彼女は少し笑って「私は付き合い辛い方じゃないと思うから
安心していいよ」と言った。
 ただ、全体的にまだ俺の方が自分のことを語っている時間が
多いと感じた。そうじゃないんだ、俺は相手の話を聞きたいと
思っているんだ。そう思い、俺は話題を変えるタイミングで、
彼女に質問を向けようとした。
 そのとき、おふくろが現れて「もう遅いから早く寝なさい」
が発動してしまった。ああ、なんて間の悪い。
 だが、俺は焦らず騒がず「あいわかった」と立ち上がった。
 そうさ、がっついても仕方が無い。
 その理由も無い。俺はあくまで、折角新しい従妹が出来たの
だから、それがどういう人間なのか知りたいだけだ。それは、
急がずともゆっくりと学んでいけば良いのだ。
 階段あがって彼女は俺の部屋だった場所に入った。
 本来は、俺に取っての安息の空間。
 だが今の俺が休息を取るのは、隣の通路兼臨時用の客間だ。
 彼女はドアをしめる前に一瞬立ち止まって、こちらを見た。
 「おやすみ」
 どちらともなく言った。
 彼女は中国語で。
 俺は日本語で。
 全く以って、悪い気はしない。
 何の隠蔽も粉飾も無い、ノーガード=無防備の俺そのものを
取り出して見せたことは、これはこれで良かったのだと、今は
思っておきたい。
チャンプ(−O−) * キモヲタ☆ノーガード! * 15:41 * comments(0) * trackbacks(0)
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